金利上昇でも米住宅価格が下がらない謎、犯人は『ロックイン』
How Mortgage Lock-In Is Quietly Pushing Up House Prices - Knowledge at Wharton(6月16日, Knowledge at Wharton)
この記事の要約
米連邦準備制度(FRB)が2022〜2024年に利上げした結果、中古住宅の販売は約4割も減りました。教科書通りなら価格も下がるはずですが、実際の住宅価格はほとんど下がりませんでした。 ウォートン校などの新しい論文がこの謎を解きます。鍵は『モーゲージ・ロックイン』。低金利時代に安い固定金利を組んだ人が、引っ越すとその金利を失うため家を売らなくなる現象です。 特に大きな家から小さな家へ移る『ダウンサイザー』が動かなくなり、供給が需要以上に縮みます。結果、利上げによる価格下落の約3分の1が打ち消されたと推計されています。
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金利が上がると住宅ローンの負担が増えて、家を買う人が減りますよね。なのに、なぜアメリカでは価格が下がらなかったんですか?
結論から言うと、『家を売る人』が激減したからです。需要だけでなく供給も同時に縮んだので、価格が下がりにくくなりました。
アメリカの住宅ローンは『30年固定金利』が主流です。しかも、その低い金利を引っ越し先に持っていけません。だから安い金利で借りた人は、引っ越すと損になるので家を売らないんです。
なるほど。でも、売る人が減れば買う人も減るから、影響は相殺されそうな気もします。違うんですか?
そこが論文の核心です。実は相殺されません。動かなくなる人に『偏り』があるからです。
特に多いのが、大きな家から小さな家へ移る予定だった人たち。論文では『消えたダウンサイザー』と呼んでいます。彼らが家を手放さないので、中古の供給が需要以上に減るんです。
大きい家を手放さない人が増えると、なぜ価格が上がる方向に働くんですか?
市場に出てくる中古物件が減るからです。本来なら売られて買い手に渡るはずの家が、ずっと持ち主の手元に残ってしまいます。
アメリカの住宅取引は8〜9割が中古です。だから『誰が売るか』が価格を大きく左右します。建設や新築の話ばかりが注目されますが、実は中古の供給こそが市場の本体なんです。
数字でどれくらい違うんでしょうか?
論文のモデルでは、金利を3.5%から6.5%に上げた場合、ロックインがなければ住宅価格は約16%下がるはずでした。ところが実際には約11%の下落にとどまりました。
つまり下落の約3分の1が打ち消されたわけです。さらにローン残高が大きい高額エリアほど影響が強く、借り手の引っ越し率は約25%下がったと推計されています。
買えなかった人や引っ越せなかった人は、その後どうするんですか?
持ち家を買えない人が賃貸に流れます。その結果、家賃が上がります。
しかもロックインは賃貸の供給も一部しぼませるので、家賃上昇をさらに後押しします。要するに利上げは『買う負担』を下げるより『借りる負担』を上げる効果のほうが強く出てしまうんです。
政府が補助金を出せば、動かない人を動かせるんじゃないですか?
論文は、売り手に1万ドルの税控除を出す政策を検証しています。確かに引っ越しは少し増えますが、もらった人の大半はもともと引っ越す予定だった人でした。
結果、政策で『新たに動いた1人』あたりのコストは約65万ドルと推計されました。これは買い替え先の家1軒分より高い。効率としては非常に悪いという厳しい評価です。
これって日本にも関係ありますか?日本の事情とはだいぶ違う気もします。
日本は変動金利の比率が高く、ロックインの効きはアメリカほど強くありません。ただ、固定金利の長期ローンを抱える人ほど『金利を手放したくない』心理は同じです。
金融政策が転換し金利が動くと、日本でも『売り控え』が起きて中古の供給が細る可能性があります。供給が減れば価格は意外と粘る、という視点は持っておくべきです。
エージェントとして、この話をどう実務に活かせばいいでしょうか?
まず『金利が上がる=価格が下がる』という単純な説明から一歩抜け出せます。供給側の動きまで読めるエージェントは、顧客への助言の説得力が段違いです。
具体的には、売り控えで良質な中古が市場に出にくい局面では『今出せば買い手が集まる』と売り手に提案でき、買い手には『賃貸が値上がりする前に動く』根拠を示せます。金利と人の心理、供給の連動を語れることこそが、他のエージェントとの差別化になります。
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